Building renovation・Interior design

KITAHAMA NEXU BUILD

大阪市中央区、京阪本線北浜駅から徒歩6分。

北区中之島の南縁を流れる河川である土佐堀川からほど近く、大通りに面して建つ地下3階/地上30階建の高層ビル。ビルが竣工したのは今から約50年前の1973年。

西日本初の超高層ビルとして建設当時から話題となった「北浜NEXU BUILD(きたはまネクスビルディング)」は、通称:黒ビルの名前で地域の人々に親しまれてきた。

今回手掛けたのは、「北浜NEXU BUILD」のリノベーションプロジェクト。

計画が開始したのは2022年11月。約1年半の期間を経て、一期工事が竣工した。


築50年のビルの本質的なバリューアップに向けて

ビルのリノベーション計画の目的は、バリューアップ。文字通り価値の向上を目的としている。不動産の目線で語ると、長い年月を経て老朽化したビルに価値を与え、収益性を確保すること。

計画初期段階で最初にビルを訪れた際に課題として感じたのは、北側の道路からビルエントランスに向かって拡がる公開空地。ビルの外観タイルと同じグレートーンのタイルが敷き詰められた広場は、殺風景でもの悲しげに見えた。

外観やインテリアなどの表層の仕上げ変え、家具を配置するだけのリノベーションでは、本質的にビルの価値を向上させることには繋がらない。ビル本来のポテンシャルを引き出し、価値を最大化させる必要があると考えた。

(下の写真) 工事着工前/ビル外観写真

(下の写真) 工事着工前/1Fロビーの写真

さらにもう一つの課題は、入居者が利用する共用エリアを充実させること。

北浜NEXU BUILDには、2Fから30Fまで約34社の企業が入居する。出勤時や昼の時間帯には、上階の入居者が地下の共用部である食堂エリアで休憩や食事をとる姿が見られた。

しかし、食堂エリアは当然ながら地下階のため日が入らず、決して明るい雰囲気ではない。広々とした場所が確保されているにもかかわらず、利用者が少ないことに課題があった。

(下の写真) 工事着工前/地下一階 食堂エリア

 

人の流れをビル内部へと取り込む仕掛け

ビル前面の公開空地の活用、そして共用エリアの充実度に関する課題。

2つの課題をメインに捉え計画を進める中、ビルの断面図から、地下1階区画が1階の区画よりも前面道路際までせり出した区画であることを確認した。

そこで、公開空地に地下への階段を設置することで地下フロアへの動線を生み出すことができないか。というのがプロジェクト全体の出発点となった。

さらに、前面道路からの動線を確保したことにはもう一つの狙いがある。

地下へ続く階段を設置したことにより繋がるのは、前面広場のちょうど真下に位置する食堂エリア。開口することにより、もともと光の入らない場所であった地下のエリアには光が入る。

地下階へ人の流れを生み出すことで、テナント誘致の促進にも期待ができると考えた。


(下の図) 「北浜NEXU BUILD」断面図

北浜の歴史を感じる、街の新たなスポット

ビルの外観・内部のデザインにあたっては、北浜の歴史を反映したデザインモチーフや素材を取り込み、周囲の環境と美的に調和するように一つ一つの要素を選び、構築していった。

「北浜」という地名は、船場の最も北にある浜 (水辺) を意味する。 両替商、米問屋、米仲買が集まる金融の中心地として栄えた場所。明治初期の頃は水辺に料亭や旅館が並び、船場の旦那衆が小船で乗り寄せ、店に上がる粋な別天地を成していた。

明治維新後に株式取引所が開設され、証券街として賑わう街に。1911(明治44)年、土佐堀通が市電開通に伴い拡幅されると、水辺の街区が分断され、徐々に水辺の建物が証券会社のオフィスに変わっていった。

水辺の街区から証券の街へと発展した北浜。かつての北浜の面影を感じる要素として取り入れたのは、船の竜骨(Keel)。 船舶の構造材のひとつで、船底中央を縦に船首から船尾にかけて通すように配置される強度部材である。

建物に入った瞬間に見えてくるエントランスロビーの天井のデザインは、Keelの形状から着想を得ている。

また、証券の街として発展した北浜を象徴する要素として、金(コイン)や金融機関の建築物を想起させるデザインディティールやカラーリングを建物全体に取り込んだ。

建物外観のタイル、広場に敷き詰めた煉瓦色のタイル、ベンチやテーブル、テナントサインなど全体を構成する素材から細部に至るまで、一つ一つの要素が北浜の歴史を語り、街の景色に溶け込む。

さらに、前面広場に開けた開口部の真下、光が差し込む地下のガーデンに備えたのは、約6mのホルトの木。象徴的な樹木が建物のファサードに彩りを加え、地下のガーデンと外の景色を繋ぐ役割も果たす。

人の流れがビルと街を繋ぎ、豊かな景色を創り出す。

ビルの本質的なバリューアップを目指して進めたリノベーションプロジェクト。

日光が降り注ぐ地下階のガーデンは、平日の昼間にはお弁当を食べたり、コーヒー片手に休憩をしたり、打ち合わせをして過ごす人で溢れる。

公開空地に設置したベンチは、ビルの利用者だけでなく街を歩く人の休憩場としても活用される。植栽が生き生きと育つウッドデッキでは、子供が走り回り、ペットの散歩に利用する人が行き交う風景も生まれた。

ビルの完成後、広場や地下階へと人の流れが生まれ、街の景色が変化した。

リノベーションと共に生み出された公共空間は、これからさらに地域に根付き、豊かな時間を重ねていく。

Project details